4ヶ月ぶりに見る懐かしい我が家…。 桜子は久しぶりに帰ってきたが、すぐさま中に入るのを躊躇していた。 その時、家の中から杏子が出てきた。 「桜ちゃん・・・。」 桜子は、ちょっと気まずそうに微笑んだ。「ただいま、もも姉ちゃん」 気がつくと、杏子の後ろに笛子も立っている。桜子は少し緊張気味に言った。 「敷居をまたがせてもらってもよろしいでしょうか?」 それまで無表情を装っていた笛子の顔から、一気に笑みが溢れた。 「何言ってるの、さ、入りなさい。」 仏壇に線香を上げると、桜子は改めて姉たちと向き合った。 「山長さんのご主人、具合悪いの?」
笛子と杏子は僅かに驚いた。「知っとったん?」 「うん・・・。」桜子は答えた。 「だから帰ってきたの?」と姉に言われ、桜子は狼狽した。自分の気持ちを見透かされた様な気がしたのだ。 「う、ううん、そうじゃないんだけど…。」
一方、山長では、拓司が最後の時を迎えていた。 医者の診察を心配そうに覗き込む達彦とかね。 「ご臨終です。」医者は静かに言った。 職人たちのすすり泣きが聞こえる。達彦もかねも泣いていた。
達彦は職人頭の仙吉から、古びたノートの束を渡された。中には味噌の仕込み方など、蔵元として生きる為の知識がビッシリと書かれていた。 「音楽家として成功して欲しいが、道は険しい。もし達彦が帰ってくるような事があったら、これを渡してほしい。」 と、生前に拓司が預けていたのだ。 自室でひとり、達彦はノートを前に、肩を震わせた。 「オヤジは・・・俺に店を継いで欲しかったのか?」 達彦は慟哭した。父が最後に俺に伝えたかったのは何なんだ? キヨシが言う様に、本当は店を継いで欲しいと思っていたのか?達彦の心は乱れた。
その夜、拓司の通夜が山長でしめやかに行われた。 有森家の人々も訪れた。その時、奥からかねが出てきた。かねは桜子を見た途端、厳しい口調で言った。 「待って、アンタは上がらんで。」 「お線香1本だけでいいんです。」桜子が言ってもかねは受け入れようとはしない。 それどころか、桜子を罵倒したのだ。 「アンタの所為で全ておかしくなったのよ」 それを聞いた磯が激怒した。「いくらなんでも言いすぎじゃないの」 息巻く磯を、徳次郎がなだめた。
有森家では磯がかねへの悪態をついていた。 「あのバカ女、何ワケわからん事言ってるのさ。達彦さんと桜子ちゃんに、何もある訳ないでしょうが。」 そんな叔母に桜子は、きまりが悪そうに言った。 「それが、実はあるんよ・・・」桜子の言葉に驚愕する磯と徳次郎と勇太郎。 桜子は更に続けた。 「好き、って言われた。」磯は更に驚いた。姉二人がさほど動じないので、磯は不思議に思った。 「あんた達知ってたの?」 笛子と杏子は顔を見合わせた。 「なんとなく、そうじゃないかな、って思ってた。」 徳次郎は心配していた。その心配は笛子も同様だった。 いずれ蔵元を継ぐ達彦と桜子では住む世界が違いすぎる。仮に桜子が女将になったとしても、やっていけるのか?かねとの確執はどうするのか? 様々な困難が予想されるが、桜子はそこまで考えているのか?
だが桜子は言った。達彦さんは音楽家になる、と。 桜子は達彦に、良き友、音楽の良きライバルとしての存在を願っていた。 「ずうっと先の事なんて考えられない、でも今は音楽だけを見つめる筈、音楽家になるのは達彦さんの夢だよ。」 心の中で思っていた。◆
「純情きらり」キャラで自分に一番近い性格は誰か、といえば、もう間違いなく笛子(笑)。 最初見た時、おいおい自分ぢゃん~と思ってシマッタ。 ほんじゃ、桜子が今後どれだけ成長していくのか、笛子の視点で見守っていきますかな。
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